第11回「珍味」〜からあげとナス以外の注文に挑戦!〜

早稲田通りの一風堂の前にある「珍味」。ここは多くの早稲田生から支持を得ている、早稲田の中でも数少ないうまい店だ。ここの「なす(なすと豚肉の味噌炒め定食)」は絶品である。ちなみにここの半ライス(ライスも)はから揚げが付くので、通は「なす」と「半ライス」を頼むのである。だが、ここでは客があまりに多いため、から揚げとなす以外は、店の効率からして、注文するのは好ましくないという掟がある。壁には多くの色紙があり、「五年間お世話になりました。卒業式の日で初めてなすとから揚げ以外を頼んでしまいました。おやじさん、すみません」とある。からあげとなす以外の注文をすることは、まさに神聖なことなのである。しかし、それにしてもここの色紙には「五年間どうも・・・」というのが多い。さすが留年を薦める教授がいるくらいの大学だ。我々プロジェクトチームもからあげとなす以外を注文することを躊躇していた。

服部と小野寺はこの日、「大学文化史」の講義を受けていた。この日は坪内逍遥先生についての授業であったが、坪内に大きな影響を与えたとする藤村操の死を知った。藤村操は華厳の滝で自殺をする前に、木をけずってこんな句を残したという。

厳頭之感

 悠々なる哉天襄、遼々なる哉古今、五尺の小躯を以て比大をはからむとす、ホレーショの哲学ついに何等のオーソリチーを値するものぞ、万有の真相は唯一言にしてつくす、曰く”不可解”我この恨を懐て煩悶終に死を決す。既に厳頭に立つに及んで、胸中何等の不安あるなし、始めて知る、大いなる悲観は大いなる楽観に一致するを。

「だけど、やっぱりホレーショよりも飯だぜ。腹が減ってたら、ハムレットだって読んでらんないよ。」
「服部。お前はなんて不謹慎なやつだ。君なんかにはわからない事もあるんだ。」と小野寺が言った。小野寺は続けて
「華厳の滝が今も自殺の名所になっているのは、藤村操の影響だし、夏目漱石もそうとうショックをうけたらしいぞ。坊ちゃんには『打ちゃって置くと巌頭の吟でも書いて華厳滝から飛び込むかも知れない。』ってくだりがあるけど、あれは明らかに藤村操のことだ。」

「夏目漱石か。千円あれば、YAMITUKIでカマンベールが食えるね。」と服部が言うと、
「不謹慎だぞ。夏目漱石は一高で藤村操の英語の担任だったんだが、自殺する前日に夏目漱石は、予習をやっていなかった藤村操をしかったんだぞ。夏目漱石が後年鬱病になったのはこのせいだって言われているくらいなんだぞ。君なんか、予習したことないだろ。」
「まあ、でももう野口英世に代わったから大丈夫だよ」

「君は相変わらず、不謹慎な男だ。」
「なすとから揚げ以外を注文する君こそ不謹慎だ。」
「君だって、頼むじゃないか」
「藤村操を知って、いつ死ぬかわからないから頼むんだ」
「なるほど」

というわけで服部らはからあげとなす以外を注文することにした。

服部は「豚肉の生姜焼き定食」を。小野寺は「肉野菜炒め定食」を頼んだ。

左、生姜焼き、右、肉野菜炒め。取材であることを忘れ、半分くらい食べたところで、写真を撮る。

夕方で、それほど込んではいなかったので、なすとからあげ以外の注文をしてもおこられなかった。小野寺が、藤村操の死についての講義を終えて、感慨深く食べていると、服部がこの日金を持ち合わせておらず、
「悪いけど、千円貸してくれない?」
「お前は相変わらず不謹慎だ」と小野寺は言った。
「でももう、野口英世に代わったじゃん」
「そういう問題じゃない」

服部は、「しかし、早稲田の店の真相は唯一言にしてつくす、曰く”うまい”かね。」
すると小野寺は「いや、”不可解”のまんまだ。早稲田の店はそこがいい」と言った。

何度もいうがここのなすは最高にうまい。服部は週に一回の割合で通うことにした。英語部のものには、YAMITUKIとこの珍味には是非何度も足を運んでほしい。

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