第28回「ステーキハウスくいしんぼ」〜創業の社長を偲んで〜

チェーン店は、我々プロジェクトチームの調査の対象外ではあるが、この店は調査しなくてはいけない。というのは、この店は創業の社長、中本社長が伝説を残した店だからである。給料が払えず辞任に追い込まれた中本社長ではあるが、その伝説は未だに語り継がれている。そんなかつての社長を偲んでこの日は、新入社員の野上が研修に来ていた。実は、前回九鬼頭取から、業務提携を進められていたが、同時に、人材育成にも力を入れるべきだとのアドバイスがあった。プロジェクトチームの服部は、最近、今後の業務拡大を見越して、日比谷への出張が多く、藤井も大久保での研究が、小野寺は神宮での視察が忙しい。田野倉に至っては秋葉原に通いがちである。早稲田の店制覇には、後継を育てることが急務になっていたからだ。そんななか、創業の社長の精神を受け継ぐべくには、この店がいいと、服部は研修先を指定した。

この店は、かつてはごはんのお変わりが自由であった。また、ステーキのタレがテーブルにあったのである。しかし、そのタレは今はない。ごはんのおかわりも三杯に限定された。それは、創業の社長の功績だと今も語り継がれている。中本社長は、ごはんにタレをかけ、何杯もおかわりをつづけ、一時期、この店の経営を悪化させかけた。服部は、新入社員野上に対して、あのころの社長をこう表現した。
「『食して、止まん』の精神が何たるかというものは、すべてこの店で、社長に教わった。社長は、楽器奏者には、息を吸いながら、楽器を吹いて音の切れ目をつくらない人がいるが、まさにあれと同じように、休む間もなく食い続けた。そしてまさに、演奏者と同様に、リズミカルにテンポ良く食べ続ける。あの技術は未だに体得できない。おそらく一生食べ続けても、中本社長を超えることはできない。」
すると野上は、
「楽器奏者のように食べ続けるということは、つまりは食べたものが休むことなく体の外に排出(中略)ということですよね。ちょっと汚いですね。」
「まあ、確かに社長はちょっと品のない一面があった。しかし、あの精神はすばらしい。」
「わかりました。」
と野上が言うと、遠くから
「お前、何もわかってない」
と言う声が聞こえた。田野倉だった。なんと、秋葉原にこもっていた田野倉がたまたまいたのだ。田野倉は、その一言を発するや否や、
「駄目だ。秋葉に行く」
と言って、戻っていってしまった。確かに、野上はまだその精神を十分に熟知したとはいえないかもしれないが、今後間違いなく活躍をしてくれることになるとプロジェクトチームのメンバーは思った。

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送